人は、旅に出ている時よりも、
旅の算段をしている時の方が、
長くその旅を味わっているのかもしれない。
どこへ行こうかと考え、
どうやって行こうかと迷い、
宿を探し、
地図を眺め、
季節を想像する。
そして、もうひとつ。
その土地で飲む酒のことを思う。
雪の残る山の温泉で飲む熱燗。
港町で出てくる地酒。
古びた旅館の部屋で、
風呂上がりにひとりで飲むクラフトビール。
そんなことを考えている時間が、
いちばん長く、
いちばん豊かな旅なのかもしれない。
若い頃は、
時間はいくらでもあると思っていた。
でも今は、
残りの人生で、
あと何回旅に出られるのかを考える。
あと何回、
知らない町へ行けるのか。
あと何回、
知らない酒を飲めるのか。
そう思うようになってから、
算段している時間が前より好きになった。
出発してしまえば、
旅は現実になり、
日程に追われ、
帰りの時間が近づいてくる。
でも算段の中では、
旅は終わらない。
今晩もまた、
机の上に地図を広げ、
行き先も決めず、
グラスに酒を注ぎ、
残りの時間を少しだけ気にしながら、
ただ旅を企てている。
出発しなくてもいい。
どこへも行かなくてもいい。
そんな夜がいちばん自由で、
いちばん贅沢で、
いちばん長い旅なのだと思う。
この算段のいくつかを、
このブログを読んだあなたが
どこかで引き継いでくれたなら、
それもまたひとつの旅なのかもしれない。
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